自己回想 その14

返事は取り敢えず保留とし、高校時代に買ってもらったアルトを持って、スタジオに行った。
アルトに対して良いイメージはなかった。
つまり、吹けそうなイメージがなかった。

ところが、テナーを数年吹いていたおかげか、その日、私は想像以上にアルトを堪能した。
すごく、すごく嬉しかった。
アルトを吹いている自分にも嬉しかった。

ずっと、ずっと胸の奥に閉まっていた感情。
私にとってはパンドラの箱、琴線に触れた瞬間・・・・
わかっていたけど、見ない振りをしてきたアルトへの想い。

もう、止めることは出来なかった。



「俺、アルト、吹くわ」



高校時代から持っているアルトは、残念ながらメインで使う“楽器”として寿命を超えていたので、これ幸いと「セルマー」を物色した。
ローンを組んで、何とか手に入れる算段をした。
もう、嬉しくてしかたなかったので、お金の苦しみなんて気にならなかった。

こうして、十何年振りともなるアルトでの発表の場を終えた。
当然のごとく、その日からOB会での私のパートはアルトになった。


あの時、私にアルトを勧めてくれてなかったら・・・


私は彼の一言に本当に感謝している。
何だか随分と遠回りをしてきたのかも知れないけど、ようやく元の巣に帰ってきた。
一つの歯車が回り始めると不思議なことに色々と状況が変化してくる。
「わさび」創設者の一人でもあるトランペットのH氏が転勤になった。
トロンボーンは固定メンバーではなかったため、「わさび」ホーンセクションは事実上、解体ということになった。
私は一人残された。
手元にある「わさび」のテナーサックスの譜面は、当然アンサンブル用なので、既存曲に関しては一から手直しが必要となった。


しばらくはテナーを引き続き吹いていたのだが、テナーにこだわる理由もなかった。
当初はOB会はアルトで、「わさび」はテナーでと思っていたが、アルトの誘惑に負けてしまい「わさび」もアルトに転向することにした。


ここで問題。

常時、サックスが入っているポップス系バンドをいくつ知ってますか?