青年の魂、百まで(おまけ)

もう一つだけ、大学の吹奏楽部の様子をお話しよう。
大学時代の関係者がこのブログを見ていないことを祈りつつ・・・

 

 

吹奏楽部の年間の最大行事は定期演奏会だという話をしたが、この定期演奏会、幹部さん(4回生)にとってはそれこそ最後のイベントだ。
そしてこの日は幹部さんにとって忘れられない日となる。

 

時は12月の初旬。
本番当日の早朝、静まり返った学校に響く声。
「集合!」
部員全員を集める時にかかる号令だ。
発しているのは1回生の統制。
この号令がかかれば、1列に並んだ幹部さんに向き合う形で最前列が1回生、次列に2回生、最後列に3回生が並ぶ。
そして、今日一日の注意事項などの連絡がある。
幹部さん達はこの瞬間、おそらくこの4年間のいろいろなことを思い出しているに違いない。
なぜなら、幹部としてそちら側から部員を見ることのできる最後の集合だからだ。


さあ、いよいよ定期演奏会もアンコールを迎え、バラードにのって卒業していく4回生を一人づつ紹介していく。
なかなか感動的なシーンである。
そして、とうとう最後の曲。
最後はいつも元気な行進曲と決まっていた。
行進曲にのって次の幹部さんの紹介がある。
もう気分は次の年へと切り替わっていく演出だ。
♪♪♪♪♪♪♪
この曲の最後、最も盛り上がる数小節は部員全員がスタンディングでの演奏となり、曲は終わる。
会場からは割れんばかりの大きな、大きな拍手!
指揮者が式台から降りて、深々と頭を下げる。
降りてくる緞帳。
緞帳がゆっくり、ゆっくりと降りてきて、床に着いたその瞬間・・・・・・・幹部さんが“ただの人”になった瞬間だ。

 

 

部則:定期演奏会の緞帳が降りた時をもってして、幹部交代とする。

 

 

元幹部さんの楽器は誰も運んでくれないので、自分で持って移動せざる得ない。(部則:楽器の運搬は1回生の仕事である)
舞台裏では後片づけが急ピッチで行われている。
トラックへの楽器の積み込みなど、帰る支度がすべて終えるころ、会場の周りではOBOGや関係者と談笑する元幹部の姿がある。

 

「集合!」
夜の10時になろうかというころ、ひときわ大きな声が響く。
緞帳が降りた時点で新しい幹部となった3回生は、ニコニコしながら、しかし慣れないからか若干居心地が悪そうな表情のまま、初めての幹部位置に一列に並んでいる。
新幹部に対峙して1回生、その後ろに2回生が並ぶ。
卒部扱いとなった元幹部さん達は部員のすぐ横で立っている。

 

さあ、ここから儀式が始まる。
まずは元幹部さん一人一人からお言葉をもらう。
一人のお話が終わる度に、1回生の統制が「ありがとうございました!」と叫び、続いて全員で「ありがとうございました!」と呼応する。
また一人、また一人とお言葉をもらっていく。
一番最後にお言葉をもらうのは元部長と決まっている。
どんどん、元部長に近づいていく。
徐々に徐々に、そわそわした空気が流れてくる。
少しづつ「ありがとうございました!」という声が大きくなっていく。
それはまるで、あと一人で優勝が決まる寸前の野球のベンチのような感じだ。
そしていよいよ、元部長に番が回ってきた。
満面の笑みで何かおっしゃっているが、部員は皆、次に起こることに興奮し、アドレナリンが出すぎていて、言葉を理解する余裕などない。
すると1回生の統制がひときわ大きく上ずった声で「ありがとうございました!」と叫ぶ!
全員の「ありがとうございました!!!!」というお叫びと「無礼講!!!!!」というお叫びが聞こえた瞬間、「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」という歓声があがり、部員は一斉に元幹部に飛びかかった。
元幹部も捕まっては大変と、一斉に四方八方へと逃げ出す。

 

 

部則(には書かれていないが):「無礼講」・・・今まで大変お世話になった先輩に感謝の意を込め、好きにお礼をして良い。

 

 

特に後輩に厳しかった元幹部の末路はひどいものである。
長年一緒に活動してきた3回生を中心に2回生、1回生からボコボコにされる。
どさくさに紛れて1回生からしばかれている2回生の姿もある。
「○○はどこいった!!!」

血眼になって探し回る部員。
身の危険を察知していた元幹部はとっとと姿をくらましている。
12月だというのに、捕まった元幹部は近くの噴水に投げ込まれる始末・・・
すべてはお世話になった先輩への感謝の意を表す行為であることを、念押ししておく。

 


これが、元応援団 吹奏楽部の恐るべき慣習。
こんな時代を経て、今はおそらく、みんなが仲の良いクラブになっているのではないだろうか・・・

 


※この物語はフィクションではありません